フランク・ステラ -芸術の社会性-

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 最近良く現代アートのインタビュー動画を見ている。今回はアメリカの画家であり彫刻家のフランク・ステラフランク・ステラの巨大な壁画作品は三田のオフィスビルのロビーに飾られているのを見たことがある。忙しく行き交うサラリーマンの風景とマッチしていた印象があった。彼は23歳の時に描いた「ブラックペインティング」シリーズでデビューする。真っ黒な絵画に白いストライプが入ったミニマル絵画作品。しかしというか、自分の見た動画ではステラ自身あれは若いころのロマンティックな一時の感情で生まれたものだと説明していたのが印象深かった。その後絵の形とキャンバスの形が同じシェイプドキャンバスシリーズを制作し、次にイレギュラーポリゴン(不規則な多角形)のシリーズで新しい展開をする。

 イレギュラーポリゴンシリーズの初期作品である、Chocorua Ⅳはインタビューの中で触れていた絵画作品。ステラはとても気に入っているらしい。チュコルアはアメリカのニューハンプシャー州にある湖の名前。ステラが小さいころ父親と良く釣りに行っていた場所のようだ。ステラはこの作品はロシアの画家カジミール・マレーヴィチのBlue vertical rectangle and blue triangleという作品にインスパイアされたと語っている。青い三角が黒い四角に横からぶつかっている幾何学的な絵画作品。これに対しステラは自分の作品は色が形を持たずにフラットな平面絵画であると語っている。マレーヴィチは、色が絶対的な形を持つことによって究極な空間を目指している。

 ここで気が付いたことがある。元々色は形を持っていない。それに対して究極的な形を与えたマレーヴィチの空間。その絵画作品にインスパイアされたステラは色に形を持たせず、フラットに並べられた不規則平面を制作していく。どこかが似ていてどこかが違う。ステラのフラットな色面はデザイン的な印象を持ち、所謂絵画的な味わいを持つことが難しい。自分が見た動画でもしきりにステラはAbstraction(抽象化)という言葉を繰り返していた。一般的な抽象のイメージは幾何学だが、具象的なモチーフが抽象化するわけではなく、元々幾何学から始まる絵画作品への挑戦がステラにはあったのかもしれない。しかし一方で幼少期の思い出の場所がイメージの源泉である故、純粋な抽象ではないようだ。

 インタビュー動画ではその後のアルミニウムを使ったレリーフ作品や彫刻に触れている。ステラはスクラップされた自動車の部品を繋げて彫刻にするジョン・チェンバレンの影響も受けていると語っていた。プレスされスクラップ化した自動車部品はある種の偶然性を帯びた色彩オブジェであり、ステラもそうした偶然性をサンドキャスト(砂型の鋳物)したアルミに転移させて作品を制作している。ここまで書いてきて気づいたのは、アメリカのアーティストは物質を介した自分たちの日常を風景化することの文化を背負っているのだということ。執拗に追いかける日常性と物質文化。そうしたテーマにアメリカンモダンのアーティストはひたむきに向き合ってきたのかもしれない。

 かつて工業社会によって近代アメリカの経済が潤い、国家の形が出来上がっていくことと無縁ではないのだろう。そうしたナショナリステックな感情に対してアーティストの生の声が聞こえるのは現代の動画の興味深いところである。以前の自分は美術雑誌から都合良くアーティストの名言に影響されて、自分の作品の思い込みの根拠にしていたこともあったが、インタビュー動画では嘘が付けない。価値化された文字ではなく、本人の口から出たゆらゆらする言葉の数々は生々しい。そう考えると冒頭に書いた三田のビルのロビーで見た忙しく行き交うサラリーマンの風景とマッチしていたステラの作品は本人の思惑通り都会の風景をトレースしていたのだろう。