点を打つこと。

　私は色を塗ったキャンバスに点を打つ。それは無造作に打っているように見えるが、そうではない。その、どこにどういう風に点を打つのかが私の表現の始点であり終点でもある。そこで意識されているのはリアルな感覚である。点を打つ時私の感覚が求めているのは、身体的な直接的なものである。何かに還元されない、描くことそのものへ向かう意識。それは同時に見ることそのものへの眼差しでもある。見ることを対象化すること。
　普段の日常の生活の中で我々は常に対象を見ている。何かを見ている。そうではないものを探していく。以前、霧の中で目を開けた時目を開けているのに何も見えない体験をした。その時私の意識に上がったのは自分自身の足元の感覚だった。見ているのに見えない感覚。そこに横たわる新しい景色を私は見ようとしている。それはどんな風景なんだろう。
　私は見ることに拘っている。見ること自身に立ち返る。それはまた作品を見る時間の推移を意味している。見ていることの現在性。作品を見る人がこの「現在の物語」の主人公だ。