「薄い絵画」について。

 最近描いている絵画作品のシリーズタイトルを「薄い絵画」とした。このシリーズは紙に描いたものとパネル布張りに描いたものを並行して制作しながら絵画の実在を追いかけようとしている。元々紙に描いていた仕事は習作のつもりで描いていた。パネル布張りに描いていた仕事はいわば実作品であった。
 作品の構造は何も描かれていない白い矩形の端に色の点をランダムな感覚で打ちながら、絵画概念を表出するというコンセプトだった。最初、絵画面の広がりと展示空間の対比がコンセプトだったので、矩形は横長であった。横長のパネルに布張りした作品が幾つか出来上がった。そうした、絵画を広がりで捉える所与の絵画イメージを検証するために、縦長の矩形を思いついた。それをまずは紙で検証しようと4つ切りの画用紙を縦に2分して縦長の画面を作った。完成したものは意外な発見を伴うことになった。私は描く前の何も描かれていない縦長の画用紙を手で持ちながらその画用紙の厚みを感じていたことだった。その時はその感覚をやり過ごしていたが、縦長の絵画作品が出来上がった時に”薄い絵画”という言葉が浮かんだ。その絵画作品は紙の厚みを内包していた。その認識を実証したと思ったのは「円の上」という同じく矩形の画用紙に描かれた、余白の中に置かれた円の縁に色の点を打った作品に絵画の表面だけを感じた知覚によってだった。
 この「薄い絵画」という言葉は私がずっと初期からずっと追いかけてきた”絵画のもの性”を感覚的に表現しているように思われた。「絵画のもの性」は今後立体的な作品に於いても別の形で検証していく。現在”絵画のもの性”という言葉で展開しようとしている作品は様々な領域の感覚を並行して認識していこうというものである。写真は「薄い絵画 No.9」。