マリメッコ展を見て(芸術の社会性)


ケシの花の模様で有名なマリメッコデザイン。先日創業者であるアルミ・ラティアの人生を描いた「ファブリックの女王」の上映もあり、気になっていたので「マリメッコ展」を渋谷に見に行った。最初に初期のデザイナーであるヴオッコ・ヌルメスニエミのインタビュー動画を見た。彼女の言葉で印象的だったのは、ファッションとデザインを区別していることだった。彼女にとっては、ファッションとは様式であり、流行を追うこと。デザインは“前を向くこと”だという。これは服飾の世界に限ったことではないと思われ、示唆的な言葉だと受け取った。ヴオッコのデザインは洋服でありながら彫刻のようでメッセージ性が強いと感じられた。インタビューの中で彼女は私たち(マリメッコ)の洋服のアイデアはファブリックを見せることだと言っていた。手で女性の身体のくびれを手で表現しながら、以前男性は戦場へ行き、女性は家事や子育て、農作業をした。戦争は終わった。私たちは縛られてはいけない。そこからマリメッコのボックス型のワンピースが生まれる。その平面的でグラフィカルなワンピースはとても印象的で裁断も独特で、首元や袖元のラインや仕上げが美しく造形として強くて美しい。生地としては安価なコットンだが、造形性が高くドレッシーだ。

その後様々なデザイナーが彼女の後を受け継ぎながら新しいマリメッコのデザインを模索していく。展示会場は時代を追ってマリメッコが国際的な企業になっていく経緯も紹介していた。その中で印象に残ったことは、いつの時代もデザイナーたちがみんなマリメッコの創業からのコンセプトをその時代に合わせながら表現しようとしていることだった。所謂ファッションデザイナーの華々しさとは無縁な手作業をそこに見た。初期から一貫している筆などで描かれる下絵をベースにしたファブリックパターンはとても夢があり、ファッションデザイン的な華美さはないが生活に根ざす強さが表現されている。

そこにあるのは人生に対するシンプリシティ、強さ、華やかさ。マリメッコのコンセプトは時代を経て洋服に留まらずに食器やバッグなどのデザインにも及んでいく。展示ではマリメッコの工場の映像もありとても興味深かった。シルクスクリーンの印刷をチェックする専門の技術者。マリメッコの模様の特徴的な色彩を支えるカラーキッチンと呼ばれる調合用の機械。そうした地味な作業の積み重ねがマリメッコのコンセプトを支えている。

展示会場を最後まで見て、また最初のヴオッコのデザインの展示を見たくなった。シンプルであり、マリッメッコのデザインポリシーを真っ直ぐに表現している。その後のあの有名なケシの花をあしらったマイヤ・イソラのデザインは花のモチーフが当時禁止されていたにも関らずに、マイヤが大好きな花を描いて後にマリメッコの代表的なイコンになっていく。創業者のアルミ・タイラは“花”は野に咲く花が一番美しいのであるという理由で花のモチーフを禁じていたらしい。そこに彼女の強いコンセプトを感じると共に後のデザイナーが柔らかく解釈しながらマリメッコに敬意を払っていることが現在までブランドとして世界で愛されている所以であろう。

展示の最後にあった映像でもデザイナーが長い時間を掛けてプリント柄に使う図案がどのように製品として使われ広がっていくかを皆で十分に話し合うのだということを語っていた。そこには昨今の流行を追った市場主義のデザインとは一線を引いた息の長い物の作り方を見た気がした。