絵画と文化 -芸術の社会性について-

ラスコーの洞窟壁画は有名だ。狩猟の記録なのか、儀式的なものなのか描画の目的は定かではない。しかし動物の姿が生き生きと描かれていたり、洞窟の岩の隆起を利用した立体的な絵を見ていたりすると、何とかしてバイソンやシカの丸味や重み、力強さを表現し…

絵画と光 ―芸術の社会性について-

今回は、絵画と光について書きたい。絵画の歴史はヨーロッパではキリスト教の宗教画がありその後、風俗画(ブルジョアジーの趣味)として風景画や室内画が生まれた。オランダのフェルメールやデンマークのハンマースホイの室内画は有名である。市民の日常風…

「触ってみよう!ワークショップ」 -芸術の社会性について- 

先日職場の福祉施設で、私が企画した地域対象のアートワークショップを行った。テーマは柔らかい紙粘土を使った感触遊びをベースにしながら自由に制作するというもの。自主性に任せて、成果を問わないというのもワークショップ概要で事前に伝えた。材料は硬…

ストリートアートとは何か ―芸術の社会性について-

前回建築と絵画について書いた。ぼんやり壁のことを考えていたら、壁画から落書きへとイメージが進んだ。落書きと言えば、90年代自分がニューヨークへ遊学した時は既に落書き(グラフィティ)は芸術と認識された後で治安も回復していた。ストリート文化も成…

建築と絵画 -芸術の社会性について-

先日、自宅の日本間に自身の絵画作品を飾った。その時、絵画の外側である本来壁と認識されるはずの壁が消えてしまったように見えた。畳に正座しながら辺りを見回して、日本間にある空間の一体性に改めて驚いた。隣にある洋間にいつも絵画作品を飾っているの…

絵画と写真の違い ―芸術の社会性について-

ある画廊で、絵画と写真の違いの話になった。自分も漠然とは両者の違いについて考えていたものの、確信のある言葉になってはいなかったので考えてみようと思う。歴史的には肖像画など絵画が社会に対して担っていた仕事を写真が代わって行うようになった事実…

ロバート・ブリアの動く芸術 -芸術の社会性について-

三年に一度行われた芸術祭、あいちトリエンナーレ(現在のあいち2022)は、展示を中止に追い込まれた「表現の不自由展」において日本の芸術の社会性の脆弱さを露呈した。天皇を扱った作品にせよ、従軍慰安婦をテーマにした作品にせよ。美術の展覧会に来…

私たちの傍にあるもの -芸術の社会性について-

築67年の木造アパートを使ったギャラリーカフェHAGISOで「私たちの傍にあるもの」という個展を2022年8月17日から9月11日まで谷中で行った。展示の内容はHAGISOの営業の中で出てきた段ボールをもとに絵画作品を作り、ふらっとカフェに入って来たお客さんの…

観客の問題 ―芸術の社会性についてー

非常に難しい問題でもあるけれどシンプルな問題でもある観客の問題。一般的には芸術家は自身の衝動に駆られて描きたいものを描く、作りたいものを作ると考えられている。観客は安全な場所から芸術家の世界を眺めるという関係。しかし長い美術史の中では、作…

ドクメンタ15とタリン・パデイの活動

ドクメンタという芸術祭がドイツのカッセルで5年ごとに行われている。今年は15回目で、元々ナチス政権下、退廃芸術とされた作品を再展示することから始まった。近年、脱西欧中心主義を掲げ、積極的に非西欧国の作家を招いて独自の価値観を形成している。その…

ガエターノ・ペッシェ -芸術の社会性について-

ガエターノ・ペッシェ(以下ガエターノ)という人がいる。イタリア人建築家であり、デザイナーである。それとも彼は芸術家だと紹介した方が良いのであろうか。私がデザインを学んでいたころ彼の名前を知った。芸術的な家具に憧れていた私にはスター的存在であ…

現在のウクライナ絵画 -芸術の社会性について-

毎日届くウクライナ侵攻のニュース。報道を見ながら、モヤモヤした思いをする。この戦争ほどメディアの存在を感じる戦争はない。いつの時代も戦争とメディアは互いを必要とするし、自分の意識のせいでもあるとは思うが、変な距離の近さを感じてしまう。それ…

ジェフ・クーンズの芸術らしさ -芸術の社会性について-

ジェフ・クーンズ作品 オクサナ・ジュニクルプ作品 今回、ウクライナの芸術について触れた文章を書こうとしていた。その内にある作家に辿りついた。それはアメリカの美術家ジェフ・クーンズ(以下クーンズ)である。何故辿り着いたかと言えば、ウクライナ人…

芸術と自由 -芸術の社会性について-

「芸術と自由」と書くと何か一昔前の言葉のように感じるが、先日職場の施設で自由について実感したので少し考えてみたい。その日は創作活動という枠で、絵を描いたり織りを織ったりする時間であった。職場は所謂「重心」と呼ばれる重度心身障害者の通所施設…

バックミンスター・フラーの世界  -芸術の社会性についてー

先日放置していた歯痛を治しに歯医者へ行った。そこに偶然テンセグリティ(宙に浮いたように見える構造)の模型が置いてあった。調べると、アメリカの彫刻家ケネス・スネルソンの作品に使われていた引張力と圧縮材の構造に、テンセグリティ(張力+統合)と…

人と作品 -芸術の社会性について-

横浜のあざみ野スペースナナで行われている「ココロはずむアート展」に行って来た。106人の障害を持つ方の作品展。今回自分の中で、“人と作品”というテーマで彼らの作品を見ようと思っていた。展覧会では「作家カード」と言われる、制作した作家を施設の職員…

環境と作品 -芸術の社会性について-

環境について社会が関心を持つようになって久しいが、環境と芸術の関係はどうなっているのだろうか。作品から考えてみる。環境芸術という概念を持った作品が60年代末にアメリカ中心に主に彫刻という形で現れた。その先駆者には機械文明を環境と捉えてアイロ…

コンセプチュアルアートについて -芸術の社会性について-

芸術の形式の中にコンセプチュアルアートというものがある。元を作ったのはマルセル・デュシャンの既製品を使ったレディメイドという概念を持った作品群だ。デュシャンは、視覚芸術に対して新しい提案をした。それは既に我々の身の周りが芸術なのではないか…

セザンヌとジャコメッティ -芸術の社会性について-

画家ポール・セザンヌと言えば風景画と静物画で有名である。また、彫刻家アルベルト・ジャコメッティと言えば細長い人物の彫刻が有名だ。今回は一見違うが似ている二人の芸術家を比較してみたい。画家と彫刻家、ジャンルは違うがジャコメッティはセザンヌを…

ボイス+パレルモ展 -芸術の社会性について-

ボイス+パレルモ展に行って来た。ボイスとはヨゼフ・ボイスのことである。「人は誰もが芸術家である」と現実の民主主義社会を社会彫刻に見立て、芸術概念の拡張を問うたドイツの芸術家である。パレルモとは、ブリンキー・パレルモである。ボイスの芸術アカ…

ファーレ立川へパブリックアートを見に行く(2)。 -芸術の社会性について-  

二度目の来訪であるファーレ立川。前回は街中にアートが存在していること自体が自分の関心の中心であった。立川駅の米軍跡地に建てられた都市計画の中に溶け込むように存在するアート。昨今の地方のビエンナーレなどの芸術祭の先駆けになるパブリックアート…

ファーレ立川へパブリックアートを見に行く -芸術の社会性について-

ファーレ立川へパブリックアートを見に行って来た。ファーレ立川は1994年に米軍跡地に建てられた立川駅前の計画都市である。その中に屋外展示された作品が街の機能を併せ持ちながら、溶け込むように存在している。立川駅から降りると、空中遊歩道が街の真ん…

高島芳幸「旧高野家離座敷に色を注す」-芸術の社会性について-

画家であり、インスタレーション作家である高島芳幸の展示、「旧高野家離座敷に色を注す」をさいたま市大間木に見に行った。歴史的建造物と現代美術の出会いがテーマ。高野家は代々医者の家系であったという。家主である高野隆仙は江戸に出てシーボルトの弟…

フランク・ステラ -芸術の社会性-

最近良く現代アートのインタビュー動画を見ている。今回はアメリカの画家であり彫刻家のフランク・ステラ。フランク・ステラの巨大な壁画作品は三田のオフィスビルのロビーに飾られているのを見たことがある。忙しく行き交うサラリーマンの風景とマッチして…

リチャード・セラ 彫刻とドローイング

時節柄美術館への足が遠いと言う理由と、動画によるアーティストの肉声から得られるものに関心がある理由から巨大な鉄の彫刻家リチャード・セラのインタビュー動画を何本か見た。結論から先に言えば、やはり実際に作品を見るべきだということ。しかし、作家…

Sol LeWitt Art itself -芸術の社会性について-

ソル・ルウィットのウォールドローイングを見に竹橋の東京国立近代美術館に行こうとしたが、コロナ禍で諦めた。その代わりに動画で沢山のウォールドローイングや他の作品を見ることが出来た。ソル・ルウィットのウォールドローイングは設計図あるいは指示書…

絵画と額縁の話から現代アートへ -芸術の社会性について-

ホルバイン 皆さん、絵画には額縁が必要だと思いますか。この、額縁という発想自体に歴史性があるのだと思います。例えばゴッホやピカソの時代、額縁は一般的でした。しかし、ピカソのキュビズムやゴッホが戸外に出て絵を描いたことは額縁と絵画の関係を良く…

音を探すワークショップ -芸術の社会性について-

自分の勤めている主に重心(知的と身体に重いハンディキャップがある方)の障害者施設で、音のワークショップが3日間開催された。主催は障害を持った方とアートを繋ぐNPO法人が行った。企画の意図として音という個人的な感覚を、利用者(施設を利用している…

「消える矩形」倉重光則展

横須賀美術館へ倉重光則展を見に行った。海に面した小さな丘の上に建つ空間に作品が置かれていた。先ず先に見たのは倉重が現在まで行って来たインスタレーションの数々をモノクロ写真で再現したものが並べられた空間だった。インスタレーション作品(設置型…

オラファー・エリアソンが我々に投げかけるもの 

オラファー・エリアソンの2014年に行われたルイジアナミュージアムでの展覧会「リバーベッドインミュージアム」の40分のインタビュー動画を見た。展覧会の内容は、大小様々なルイジアナの岩や石で作られたロックガーデンとも言えるランドスケープが美術館中…